大判例

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札幌高等裁判所 昭和63年(う)8号 判決

「(1) 被告人が火を放ったとされる本件エレベーターのかごは,原判決も認めるとおり鋼板製でありその表面に貼られた化粧シートは準不燃材であって展炎性はないのであるから,点火物から独立して燃焼することはないのであって,刑法108条にいう『焼燬』することはもともと不可能であり,本件は不能犯である。

(2) 原判決は,本件エレベーターのかごが毀損しないで取り外しが可能であることを認めながら(注),結局これを建造物の一部であると認めているが,これは最高裁判所の判例を逸脱し,刑法108条の解釈適用を誤ったものである。

(3) 本件においては,エレベーターのかごの鋼板の表面の化粧シートの一部が媒介物であるガソリンの燃焼により溶融した過程で炭化したにすぎず,独立して燃焼するには至っていないのであるから,未だ放火罪の既遂に達せず,未遂にとどまるのに,これを既遂であると認定した原判決には事実の誤認がある。」と主張するのである。

そこで所論にかんがみ以下検討をくわえる。

関係証拠によれば,…中略…本件マンションのほぼ中央部に設置された本件エレベーターは,積載量600キログラム,9人乗りのものであるが,…中略…高層(12階建)集合住宅である本件マンションの居住者が各階間の昇降に常時利用している共用部分であり,本件マンションの集合住宅としての構造とその利用形態に徴すると,原判示のとおり,本件エレベーターは,本件マンションの各居住空間の部分とともに,それぞれ一体として住宅として機能し,現住建造物である本件マンションを構成していることが認められる。そして,…中略…本件エレベーターのかごをその収納部分から取り外すには,最上階でかごから重りを外した後最下階に移したうえ,解体してエレベーター扉から搬出するなど,作業員約4人かかりで1日の作業量を要するのであるから,本件エレベーターのかご部分は,最高裁判所の判例(昭和25年12月14日最高裁第一小法廷判決,刑集4巻12号2548頁)にいう「毀損しなければ取り外すことができない状態にある」場合に該当し,刑法108条の適用上も,建造物たる本件マンションの一部を構成するものというべきである。

所論は,解体して取り外すことができる以上,右判例にいう「毀損しなければ取り外すことができない状態にある」場合にはあたらないと主張するが,焼燬の目的物が建造物の一部であるか否かの観点から実質的に考える場合,取り外しが容易でなく,解体が必要で,その作業に,少なくとも本件エレベーターのかごの場合のごとく著しい手間と時間を要する状態にあれば,あえてその取り外しをおこなうがごときは同判例にいう「毀損」となんら異なるところがなく,むしろ毀損そのものというべきであり,そのような状態も,同判例にいう「毀損しなければ取り外すことができない状態」に含まれると解するのが相当である。

したがって,これと同旨の判断をした原判決に所論指摘の誤は認められない。論旨(2)は理由がなく失当である。

次いで,本件エレベーターのかごの側壁が「焼燬」したと認められるか否かについて検討するに,刑法108条の「焼燬」とは,火が媒介物を離れて放火の目的とした建造物に燃え移り,独立して燃焼する程度に達した状態をいうと解される(昭和23年11月2日最高裁判所第三小法廷判決,刑集2巻12号1443頁)。そして関係証拠によれば,本件エレベーターのかごの側壁は,厚さ1.2ミリメートルの鋼板の内側に当たる面に商品名フルオールシートなる化粧シートを合成樹脂粘着剤(アクリル系樹脂)で貼りつけた化粧鋼板でできているところ,…中略…フルオールシートそのものは可燃物であり,ある程度の高温にさらされると,溶融し,気化して燃焼し,その際生じる炭化物も最後には焼失するものであることが認められる。また関係証拠によれば,本件の火災に際しても,被告人が放火した,新聞紙等にしみたガソリンの火気による高温にさらされた結果,かごの南側壁面中央部下方約0.3平方メートルの部分において,壁面表面のフルオールシートが溶融,気化して燃焼し,一部は炭化状態となり,一部は焼失したことが明らかである。そうである以上,建造物たる本件マンションの構成部分である本件エレベーターのかごの南側側壁の一部(すなわち建造物の一部)が媒介物であるガソリンから独立して燃焼したと認めるに十分である。

…後略…

したがって,放火の不能犯を主張する前掲論旨(1)及び放火未遂を主張する同(3)はいずれも理由がなく,失当であるというべきである。

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